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東京地方裁判所 昭和51年(ワ)1892号 判決

原告 日石丸紅株式会社

右代表者代表取締役 高野一郎

右訴訟代理人弁護士 元木祐司

同 上野正彦

被告 日軽商事株式会社

右代表者代表取締役 岩佐伸一

右訴訟代理人弁護士 岡良賢

同 佐藤正三

同 宇田川好敏

同 吉岡桂輔

主文

一  被告は、原告に対し、金六四九五万四五八七円及びこれに対する昭和五〇年九月一日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文と同旨。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は各種石油製品の販売等を業とするものであり、被告は各種金属地金及び石油製品等の販売代理等を業とするものである。

2  原告は、昭和五〇年六月二八日、被告に対し、左記のとおり代金合計金六四九五万四五八七円相当のガソリンを売渡した(以下「本件売買契約」という。)。

(一)品種 ガソリン

数量 一五万四九〇リットル

単価 一リットル当り六八円七〇銭

価格 一〇三三万八六六三円

支払方法 昭和五〇年七月三一日に支払期日同年八月三一日の約束手形を交付して支払う。

引渡時期 昭和五〇年六月九日

引渡場所 日本鉱業株式会社水島製油所

引渡方法 パイプ渡し

引取油槽船 吉田石油第二愛宕丸

(二)品種 ガソリン

数量 三〇万三六〇リットル

単価 一リットル当り六八円二〇銭

価格 二〇四八万四五五二円

支払方法 昭和五〇年七月三一日に支払期日同年八月三一日の約束手形を交付して支払う。

引渡時期 昭和五〇年六月一〇日

引渡場所 日本鉱業株式会社水島製油所

引渡方法 パイプ渡し

引取油槽船 旭タンカー第八日照丸

(三)品種 ガソリン

数量 五〇万四六〇リットル

単価 一リットル当り六八円二〇銭

価格 三四一三万一三七二円

支払方法 昭和五〇年七月三一日に支払期日同年八月三一日の約束手形を交付して支払う。

引渡時期 昭和五〇年六月一六日

引渡場所 日本鉱業株式会社水島製油所

引渡方法 パイプ渡し

引取油槽船 光洋汽船第八春日丸

3  本件売買契約締結に至る経緯は次のとおりである。

(一) 原告の営業一課長高田洋(以下「高田課長」という。)は、昭和五〇年三月中旬頃、訴外日興石油株式会社(以下「日興石油」という。)の専務取締役小笠原茂(以下「小笠原専務」という。)から、同年四月以降九月までの通期間(上期通期間)継続して毎月一〇〇〇キロリットル程度のガソリンを手配してほしい旨の要請を受けたので、訴外帝国石油株式会社(以下「帝国石油」という。)に照会したところ、同社から日本鉱業株式会社水島製油所から出荷できる旨の回答を得た。

(二) ところで、石油製品の大量取引を行う業者間においては、一取引の金額が多額であるため、支払不能の状態が発生した場合の損害も大きくなるところから、相手方の信用度に応じて取引枠、即ち、「与信枠」を定め、その範囲内で取引をすることとしていたが、原告は当時日興石油に対し「与信枠」を与えていなかったため、両者は話合のうえ、右ガソリンの取引については原告から「与信枠」を与えられ、且つ、日興石油に対し「与信枠」を与えている被告を介在させ、原告から被告へ一旦売却し、更にこれを被告から日興石油へと売却する方法によることとした。

(三) そこで、小笠原専務は、同月中に被告会社の担当者である宗像克明係長(以下「宗像係長」という。)に対し、同年上期通期間被告が原告からガソリンを買受けて日興石油に売却する形態による業者間転売取引の申込をしたところ、同係長はこれを了承した。

(四) 次いで、高田課長は、同年三月終り頃、宗像係長に対し、同年四月から九月までの通期で、原告から被告、被告から日興石油という経路で毎月一〇〇〇キロリットル程度のガソリン取引をなす意思の有無を照会したところ、同係長から右取引に応ずる旨の回答を得た。

(五) 右経過を経て、ここに、昭和五〇年四月から九月までの通期間、毎月一〇〇〇キロリットル程度のガソリンの売買をなす旨の基本的な合意(以下「通期契約」という。)が原、被告間に成立したので、高田課長はその頃、帝国石油に上期通期間毎月一〇〇〇キロリットル程度のガソリン購入の引合を正式に行った。

(六) そして、右通期契約に基づき、原告は被告に対し左記のとおりのガソリンを売渡した。

(1) 昭和五〇年四月

(イ) 一五日 一五万三〇リットル

(ロ) 二一日 一四万九九九〇リットル

いずれも、アジア共石株式会社坂本製油所パイプ渡し。

(2) 昭和五〇年五月

(イ) 五日  三〇万六〇リットル

(ロ) 同日  一五万四〇リットル

(ハ) 八日  一五万四〇リットル

(ニ) 九日  一五万四〇リットル

(ホ) 一〇日 一八万二〇リットル

(ヘ) 一五日 一五万二〇リットル

(ト) 一九日 一五万三〇リットル

(チ) 二七日 三〇万二〇リットル

いずれも日本鉱業株式会社水島製油所パイプ渡し。

(七) 高田課長は、昭和五〇年六月二八日、被告東京支店に鈴木誠一主任(以下「鈴木主任」という。)を訪ね前記通期契約に基づき六月取引分である本件ガソリンにつき購入方を申し入れたところ、同主任から被告はこれを了承している旨の返答を得た。

従って、右同日、原被告間において前記通期契約に基づく六月分のガソリン取引額が確定し、本件ガソリンについて売買契約が確定的に成立したものである。

4  よって、原告は、被告に対し、右売買代金六四九五万四五八七円及びこれに対する弁済期の翌日である昭和五〇年九月一日から支払済みに至るまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

《以下事実省略》

理由

一  当事者

請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

二  本件売買契約の成否

1  先ず、本件売買契約に至る経緯につき判断するに、《証拠省略》を総合すれば、(一)原告と被告は、遅くとも昭和四九年七月頃から、重油、白灯油等の各種石油製品の精製元売業者と最終需要家の間に介在する中間業者として毎月継続的に右石油製品の業者間転売取引を行っていたこと、(二)右取引は日興石油の働きかけにより始められたものであるが、当時、石油製品の大量取引を行う業者間においては、その経営実態、資産状態、資本系列、取引高等の信用度に応じて業者としての順位づけがなされて、その取引先も自ら選別され、このようにして選別された取引相手方に供与し得る信用の限度即ち与信枠の枠内で取引がなされるのを常としており、日興石油は、商社系の業者にのみ与信枠を設けていた原告と直接の取引関係に入ることができなかったところから、同社との間に与信関係があり、日本軽金属系列企業の商社である被告を介在させて取引をすることになったもので、原被告は、これにより、その取引量に応じて一定割合の差額金を利益として得ていたこと、(三)右取引の仕方は、日興石油の小笠原専務若しくはその命を受けた篠塚稔業務課長(以下「篠塚課長」という。)が、毎月二〇日ないし二五日の間に、当月分取引として、品名、数量、単価、代金額、仕入先、販売先を一覧表としたメモ(以下「小笠原メモ」という。)を被告方に持参し、当月、右メモ記載の仕入先の一である原告から被告が買上げ、被告から日興石油若しくはその指示する業者へ売却してもらうべく、既に当月中に製油所の積出しパイプから最終需要家に引渡されている石油製品につき、被告の担当者である宗像係長若しくは鈴木主任からその取引をなすことの了解を得たうえ、原告方へ赴き、右メモに基づき、被告が買入を了承した製品を仕入れて、これを原告から被告へ売却するよう依頼し、原告担当者高田課長の了解を得るという手順を経て、毎月末頃、右高田課長と宗像係長らとの間において、当月分取引の品名、数量、代金額を確認して決済する方法でなされており、昭和五〇年五月までの取引については後述するガソリンをも含めて、原被告間では右メモ記載のとおりの石油製品の取引がなされ、これには例外がなかったこと、(四)右石油製品の引渡方法については、製品の最終需要家が自ら油槽船を傭船して精製元売業者の積出しパイプまで製品の引渡を受けに行き、油槽船の船長と積出しパイプの責任者が立ち合い「積荷協定書」を作成して右製品の引渡がなされると、中間業者である原被告間においても右製品の引渡がなされたことになるという「パイプ渡し」の約定であり、しかも、右積出パイプでの引渡が前段(三)で認定した原被告間の諸手続に先行しているのが通例であったため、原被告とも取引対象たる石油製品の引渡には直接関与せず、小笠原専務からパイプ渡しで製品の引渡が済んだ旨の報告を受けた原告担当者が納品書、納品書控、納品受領書が一組となったものを被告に持参して納品書を交付し、納品受領書に被告の受領印の押捺を受けるという手続に拠り、代金の支払は、毎月末締めで翌月末日限り翌々月末日を支払期日とする約束手形を被告から原告へ交付することによりなされていたこと、(五)このような方法で主として重油取引を継続していた昭和五〇年三月中頃、日興石油の小笠原専務から、原被告双方の担当者に、同年四月以降九月までの上半期に通期で毎月一〇〇〇キロリットル程度のガソリンを従来と同様の方法で取引したいとの意向が表明され、原被告双方ともこれを了承したため、同年四月、五月には原被告間で請求原因3の(六)(1)(2)のとおりガソリンの売買がなされるに至ったこと(右請求原因3の(六)(1)(2)とおりガソリンの売買がなされたことは当事者間に争いがない。)を認めることができる。《証拠判断省略》

2  次に、《証拠省略》を総合すれば、本件ガソリン売買については原被告間で次のとおりの交渉がなされたことを認めることができ(る。)《証拠判断省略》

(一)  昭和五〇年六月二〇日頃、日興石油の小笠原専務の命を受けた篠塚課長は、従前のとおり、同月分の取引計画を記載した小笠原メモを持参し、被告の宗像係長にこれを示して、本件ガソリンを含む各種石油製品につき同様の方法での取引を依頼してその了承を得た後、原告の高田課長からも右取引の了承を得た。

なお、この時点では既に本件ガソリンはいずれも請求原因2の(一)ないし(三)のとおり出荷済みであった。

(二)  同月二八日午前一〇時半頃、高田課長は、被告方を訪ずれ、先に日興石油の篠塚課長から申入れのあったとおり、同年六月分取引として被告が原告から買受けるべき本件ガソリンを含む石油製品の明細を記載したメモを持参し、応対にあたった鈴木主任にこれを示したところ、鈴木主任は、右メモの記載内容を点検し、そのうち二件を除き、他はいずれも六月分取引として承諾している旨述べた。

なお、右鈴木主任が指摘した二件の取引は、原告から訴外東京キグナス石油販売株式会社への売上分を高田課長が誤って記載したものであった。

(三)  ところが、同月三〇日午前九時三〇分頃、鈴木主任から高田課長に、本件ガソリンを含む六月取引分の納品書を持参するよう電話連絡があったので、高田課長が納品書と納品受領書を持参して被告の宗像係長に、右納品書を交付し、納品受領書に受領印を押捺するよう申入れたが、宗像係長は言を左右にしてこれに応ぜず、結局、同日午後五時半頃阪田支店長から六月分の取引はしない旨の確答がなされた。

3  そこで、進んで本件ガソリン売買契約の成否について判断する。

昭和五〇年三月中旬に原被告及び日興石油との間に成立した同年四月以降九月までの上半期通期で毎月一〇〇〇キロリットル程度のガソリンの売買取引を行う旨の合意は、これに違背したときに直ちに法的強制を課し得るほどに強い拘束力を有するものとまでは認め難いが、従前継続してなされていた取引が、すべて小笠原メモに基づき、その記載のとおりになされてきている実情に徴し、取引上の慣行としては、毎月の取引につきそれが右合意の限度にとどまる限りは、右メモ記載の取引には原則として応ずるとの了解の上に立って処理されていたものというべく既に見たとおり、本件取引が石油元売業者と最終需要家との間にあって、パイプ渡しの方法により既に引渡ずみの目的物につき、直接その引渡に関与することなくしてなされる業者間転売契約に介入して利を図る形態のものであることからすると、その売買契約の成立時期は、遅くとも、日興石油から小笠原メモにより当月分の取引内容の連絡があり、これを原被告双方が了解し、これを確認し合った時点と解すべく、被告としては、小笠原専務から、当月取引分の申込みを受けた時点でこれを断りうるのはともかく、一旦これを了承し実質的に契約内容が確定した以上、その後特段の事情もないのにこれを拒絶することは許されないというべきである。

そうすると、本件ガソリンについても、請求原因2の(一)ないし(三)のとおり、既に元売業者から最終需要家に対する製品の引渡が済み、昭和五〇年六月二八日、原被告双方が小笠原メモによる取引を了承し、これを確認し合ったときに本件売買契約は成立したものと言うべきであって、その後における被告東京支店長の拒絶により、これが覆されるいわれはないものと言うべきである。

三  結語

以上の次第であるから、売買代金合計金六四九五万四五八七円及びこれに対する弁済期後の昭和五〇年九月一日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める原告の請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 落合威 裁判官 塚原朋一 原田晃治)

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